豊家の落日/幸を拾う (掌編)

慶長二十年(一六一五年) 二月 大坂夏の陣開戦二ヶ月前 まったく迷惑な話だ、と思いかけて、いや迷惑がっているのは兄の方だろうと思い直し、真田左衛門佐幸村の顔に笑みがこぼれた。 九度山蟄居中さんざん援助してもらった兄信之に向かって迷惑とは、あま…

日記/季節はめぐる・見ているだけでうっとりと・木槿・死を待つまでもない

9月某日/ 雨が続く。まさに秋の長雨だ。月が変わった途端に残暑などどこ吹く風という感じ。 今年は盛夏に張り切りすぎて、残暑にまで余力がまわらないのだろうか。でも去年もこんな感じだった気がする。 子供のころは9月というと秋というイメージで、それ…

日記/潮の匂いはしない・鮫よ、鮫よ・白鷺が飛んでいた・セミの腹・残暑はさびしい

8月某日/ 済まさなければならない用事などもあってかなり久々に実家へ。やたら木や草や花が増えていた。ブラックベリーが大量になっていて、かなりうらやましい。青じそやバジルもあった。いいな。 実家といっても自分が家を出てから引っ越した場所なので…

日記/小豆すきすき・春の範疇・奇妙な例え・自分のごはん

5月某日/ 柏餅はおいしいねえおいしいねえ。柏葉の香りの清涼さがいい。味噌餡の柏餅などまた味わいがあっておいしい。のたりとした上新粉の餅の感触に味噌餡の風味が合う。 柏餅の次は若鮎(カステラ生地に求肥のやつ)や麸まんじゅう、水無月の季節だ。…

日記/重力の強い星・春のパンまつり・矢車菊・夢見ることを自分に許す

4月某日/ 裏のお山に登ったら頂上の広場的なところで猫に遭遇した。かまってウザがられたりするのが嫌なので離れたところに座ったのだけど、どうも人に馴れているようで近くに寄ってくる。あまつさえ足に擦り寄ってきたりするのですっかり困惑してしまった…

日記/うまくやれない・あずかり知らぬ・のどけからまし・卵のように

3月某日/ 入江喜和『たそがれたかこ』1巻読んでると、いい漫画だと思いつつもつらい。 主人公のたかこさんは要領が悪くて人付き合いが苦手で、学生時代も何も楽しい思い出がなかったというタイプ。攻撃的だったりエキセントリックだったりするわけでもな…

日記/桜餅・ごぼう・いちじくのジャム・メロンパン

2月某日/ 春が待ちきれなくて桜餅を食べる。うそ。春とか関係ない。いつだって桜餅食べたいと思っている。 桜餅ってなんか見た目からして特別感があっていいですよね。旬というか季節のものを食べるのってうきうきするし。あっ、春関係あったわ。 食べたの…

日記/踊り出す・なめんなよ鳥類・卵は1個・大好きあんパン

2月某日/ 動画配信サイトの無料トライアル的なやつで映画をちょこちょこ見てる。 『マダム・イン・ニューヨーク』がすごくよかったです。インド映画。インドの急速な近代化・国際化にともなう葛藤や民族・言語におけるアイデンティティとか、女性(とりわ…

日記/ガレージをラボに・たい焼き・カニカマ・ダメさ由来の

1月某日/ ようやく『ベイマックス』(『Big Hero 6』)を観に行く。例によってレイトショーだけど、なぜか若いカップルが多かった気がする。でもそんな意識して周りを見たわけじゃないからよくわかんないな。 おもしろかったです。背景のサンフランソウキ…

日記/わがまま言える・たぬきのゴネ得・こども大人・音の中で

12月31日/ 年越しそばとお雑煮のためにスーパーに鶏肉を買いに行く。年始休み直前なのでお野菜や肉魚、おそうざいなどが半額になっていて、四方八方から半額! 半額! という声を浴びせられてくらくらする。心が弱いので余計なものまで買ってしまった。 東…

日記/贈り物・大人なのにね・来世に期待・図書館守

12月某日/ 『劇場版 アイカツ!』を思い出してはじーんとする日々を送っている。 やかんを火にかけておゆを沸かしてるときとか、切らしてた卵を買って帰る道とか、お皿洗い終わって蛇口をきゅって閉めたときとか、そういうぼけっとした隙間みたいな瞬間に不…

『劇場版 アイカツ!』感想/きみは太陽

■ レイトショーで見た ・ほんとすごく良かった。ちょっとまだあふれる喜びをまとめられる気がしないのでファーストインプレッションを書きます ・ストーリーの流れとか書いてないので見た人向け ・見に行ったレイトショーは上映終了が11時過ぎということで大…

日記/自意識蒸発・いい紙・こっそりひとりで・ウワー長生き

12月某日/ 髪を切りに行こうとしたらいつものところが改装中で空振り。予約とかいらんとこなので気づかなかった。散髪は個人的にそこそこの質量を持ったイベントなので、つまずくと軽く困惑する。 しかたないのでみっともない頭のまま街をぶらぶらする。と…

日記/真昼の静寂・イノシシと殴りあってでも・きんいろ

11月某日/ アントニオ・タブッキ『レクイエム』を読んでいる。うだるような暑さのポルトガルはリスボンが舞台の小説。夏の日差しは強く、影は濃く、蒸し暑さと人気のなさで石畳の道がいつもとどこか違って見える真昼の静寂。 真昼の静寂というのは小さいこ…

日記/それだけで全部・むき出しの人生・なんでみんなちゃんと・ブスって槍で

11月某日/ 関西文化の日ということで京都国際マンガミュージアムと京都文化博物館に行く。関西文化の日というのは近畿各府県の文化施設の入場料がおおむね無料になる日です(美術館とかは特別展だけ有料で常設展は無料、みたいになることが多い)。 京都国…

日記/ジルベール感ある・取り戻せ季節感・おかしいものは

11月某日/ 実家が送ってくれた野菜の中にオータムポエムというのがあって、ずいぶん気合の入った名前だなと思ったらアスパラ菜なのだった。「サカタのタネ」という種苗会社の販売名らしい。ジルベール感ある名前。 この手の新品種のネーミングというのはな…

日記/おいなりさん・気付いたら山・挑むような

十月某日/ ひさびさにおいなりさんを食べたので嬉しい。しかも刻んだ茎わさびが入ってるやつ。嬉しさが倍。 柚子やら麻の実やらごぼうやらが入ってたり、ごまやら刻んだ大葉が混ぜてあったり、はては五目だったり、ひと手間かけたおいなりさんはほんと嬉し…

日記/メカ・ぺかーっと晴れ・時代祭・自動筆記

十月某日/ 京都国際映画祭のイベントで市役所前のライブパフォーマンスを見た。びっくりどっきりメカが火を吹いたり音を鳴らしたりしていた。 十月某日/ 卵を買いに外に出たらとても天気が良くて、ミュージカルとかであるような、一日のはじまりになんてす…

猫は箱の外でも死ぬ

今の土地に引っ越してきてだいぶ長い。今ではだいぶなじんだような、いまだになじんでいないような。そんなん言ったらそもそも地元になじんでいたのかという話にもなる。そもそも地元という単語もなんかなじみの薄い言葉だ。地元というか、とにかく生まれ育…

日記/彼岸花もしおれる日々

九月某日/ 白川沿いの道を歩く。この前まで紅と白の彼岸花がきれいに咲いていると思ったらもう枯れている。枯れた彼岸花はなんとも物悲しい。頭皮が透けるざんばら髪の山姥か、野に晒された九相図の小野小町といった様相である。葉のない茎がやけにすっと立…

日記/甘栗の皮が剥けない人生

甘栗の皮が上手に剥けない。爪で横に割れ目を入れ、それを広げるように両脇から力を加えパカッと開くのが定跡なのだが、開いた皮に実がくっついてしまっていたりする。鬼皮を外すのはさほど難しくないが、一緒に渋皮までするりと自然に剥けていてくれる、と…

日記/インターネットあのね・死体は蹴りを避けない・人里は複雑

べつに無理して頭良さそうなこと書こうとしなくてもいいのではないか(できないし)と思ったので、ただあったことを書こうと思う。日記である。 先生あのねとかお母さんあのねと言える存在がいないのでインターネットに情報デブリを撒くのだ。インターネット…

映画『思い出のマーニー』感想/それは誰の物語

■ 見た 『思い出のマーニー』は映画館で流れた予告編を見て知った。『たまこラブストーリー』か『アナと雪の女王』か、どちらかを見に行った時だと思う。月の輝く夜の水面に浮くボートと二人の少女が美しかった。 ジブリ映画を楽しみにするという経験はあま…

日記/らちもないソウス

ソウスがなくなったので買いに行こうと思ったが、道中歩きながらどろソースが頭をかすめる。前にスーパーで見かけたときは360mlで340円くらいだった。とんでもねえ。普段使っているソウス(中濃)は500mlで180円くらいだ。計算する気にはならないが(そうい…

『アナと雪の女王』感想/これからのプリンセス

■ アナ雪って略すの穴山梅雪を思い出すからやめろ ・公開前から海外アニメ情報blogで存在を知り、PVなどを見てめっちゃ楽しみにしてた(ちょうどマイリトルポニーにハマってしばらくしてミュージカル熱最高潮のときだった)のに今頃ようやく見ました ・個人…

『たまこラブストーリー』感想/これから始まる物語

■ 初日に見てきた ・初日舞台あいさつ回あったけど予約しようかなと迷ってるうちに席が埋まった ・目悪いし変な席で見るよりちゃんと見られる席・レイトショーで落ち着いて見たいと思っていたのでいいんだけど ・パンフレット、読み応えあっていいと思うんだ…

『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』感想/どきどきして、わくわくして、それが魔法

■ 原作ファンです、見てきたので感想を書きます ・もともと原作(ひらりん『のろい屋しまい』、『のろい屋姉妹 ヨヨとネネ』上下、いずれも徳間書店リュウコミックス)のファンなので、かなり原作視点の入った感想になります ・とはいえ映画そのものをとても…

ほむらの深い愛、まどかの広い愛

■ 暁美ほむらは永遠に鹿目まどかの足にすがり続ける 「魔法少女まどか☆マギカ」において、暁美ほむらは鹿目まどかを「たった一人の、私の友達」と言い、まどかはほむらを「わたしの、最高の友達」と呼びます。 幾多のループを経て、ふたりはとうとう互いに見…

中野とわたし

Twitterのトレンドに「あずにゃん」と表示されているので何事かと思ってクリックしたら、たくさんの「おめでとう」という文字列が表示された。誕生日である。中野の。 中野の話をしよう。 中野と出会ったのは「けいおん!」というTVアニメを見ていたときのこ…

ほむらちゃんは思春期

※劇場版新編ネタバレ有