『アナと雪の女王』感想/これからのプリンセス

 

 

■ アナ雪って略すの穴山梅雪を思い出すからやめろ

・公開前から海外アニメ情報blogで存在を知り、PVなどを見てめっちゃ楽しみにしてた(ちょうどマイリトルポニーにハマってしばらくしてミュージカル熱最高潮のときだった)のに今頃ようやく見ました

・個人的にミュージカルアニメ最高! みたいな時期だったんだけど(今もだいたいそう)、数少ない知人にいいよ! って言ってもフーンみたいな反応でアッすみませんて感じ

・なのになんか公開したらめっちゃヒットしてお前らやっぱミュージカル好きやんけ!! って。みんなふだんマジョリティっ面でミュージカルdisるくせにやっぱおうた好きやんけ!!! だから言うたやろ!!! という気持ちに

・誰も聞きたい人のいない事情

 

・字幕で見ました

・雑多な感想をつらつら書きます。あんまり一貫した趣旨があるという感じではなく、まとまってない(だってもうみんなちゃんとしたのたくさん書いてるし)

 

 

 

以下、ネタバレ注意

 

■ 開始10分くらいでもう泣きそう

・アニメのミュージカル要素に弱いんよ……

・しぶる姉を動かす魔法の言葉「雪だるま作ろう」。姉妹だけで通じる特別な言葉っていいですよね

・でもその魔法の言葉「雪だるまつくろ」が通じず扉が開かないのはつらいよね……。しまいにはどこかでもうダメなんだって思って「雪だるまじゃなくてもいいよ」なんて!

・最初にエルサの氷がアナの目に当たってしまうところ、おっ原作要素って思いました

・流れるように死亡フラグ回収する両親。あそこまでいくとむしろすがすがしい、いやすがすがしくはない(人が死んでるんですよ)

 

■ ミュージカルの力

・"Do you want to build a snowman?"、物語始まってすぐのわずかな時間で怒涛のようにキーワードと背景を凝縮して伝えてしまう歌の力が本当にすごい

・ミュージカルの歌要素のすごさというのはつまり伝えたいことをぐっと凝縮して濃縮して伝える、ということ

・しかも感情移入の度合いがまたすごい

・アナとハンスの歌も恋に落ちたってことがこれ以上ないくらい伝わってくるし、アナの浮かれ具合が説明じゃなくダイレクトにわかる形で伝わってきた

 

■ 抑圧と受容

・エルサの魔力への(両親の)対処は正しかったのか問題、結局は抑圧的なものなわけであんまりいい感じではなかったんだけど、それでも両親は一緒に寄り添ってコントロールを学ばせようとしてた(決してひとりにさせるつもりはなかった)ところに不幸な事故が起きたという経緯なので、誰にもなんとも言えないと思う

・感情を抑えて、素直ないい子で……っていうの、『女の子どうしって、ややこしい!』*1というアメリカの女の子の社会生活・いじめについての本で「社会が女の子に求める理想の姿」というしんどい要求として語られるものそのままで聞いててつらかった

・「人と違う」ということをどう扱うかという問題を「隠す・抑える」という方向で解決しようとするのはつまり自らの内に爆弾を抱え込むようなもので、常に緊張を強いられるからつらいつらいよね

・その理屈で言うとやっぱ両親アカンやんてことになるんだけど、でも途中で死んじゃったから。抑圧的な言葉はどうかなと思うけど、まずはコントロールを学ばせてそこから先にこの子が受容される環境を作っていこうとしてたかもしれないし(国王だからそれに挑戦することのできる下地はあった)。コントロールできることが受容の条件だと思っていたんですね

・でも本当は逆で、受容されることこそがコントロールできるようになるための道だった

・描かれていたのは恐れを克服すること。自分の中にあるものを恐れる気持ちと、誰かを傷つけてしまうことを恐れる気持ち。"Let it go"で前者は克服した(と言っていいのかな、いいとしよう)けど、後者はずっとエルサの中にあって、だから北の山にこもってしまう。アナがやってきたときもその恐れから彼女を拒絶するけど、でも実は自分が既に傷つけてしまっていたこと(王国を雪に閉ざした)ことを知って恐れを大きくし、さらにアナまで傷つけてしまう

・後者の恐れはアナが自らを犠牲にして守ってくれたことで、ずっとアナが自分に向けてくれていたそのエルサへの愛(受容、どんな自分であっても受け入れてくれるということ)をようやく理解できて、克服する

 

■ 雪だるまオラフ

・雪だるまがアナを(そしてエルサ)を助ける旅の仲間となってくれるのいいですよね。ふたりをつなげた「雪だるま作ろう」っていう魔法は形を変えて生き続けてて、絆を形作るものになってたんだって

・状況解説、コミックリリーフの役割をになう便利キャラなんだけど、この役割ってヘタするとめっちゃウザキャラになりかねないところを上手に愛されキャラにしてたと思う

・わりとひどい目にあっても雪だるまだからってことで蘇生楽勝の無敵っぷりも安心感ただよう

 

■ Let it go

・"Let it go"、見る前からなんとなくもうええわ! っていう自棄の歌やろって思ってたんですけど……

・だからなんかちょう流行ってみんな歌ってるって聞いておや? って思ってた

・あの段階では王国を雪に閉ざしてしまったって知らなかったからあんな風に歌えるのであって(痛々しかったけど空元気はあった)、それを知ったあとのエルサがかわいそうで……。もう一段階落とすのかよーって悲痛な思いに

・ただこの歌ってたときの気持ちも決して間違ってたわけではないというか無意味ではないというか、自分へ向き合っていくなかでの大事な過程ですよね

・もちろんその先にもうひとつあるんだけど

・エンディングでこの歌が流れたのは、自棄の段階を越えたその先の「これでいいの」なんだなという、そういう方向で納得することにしました。曲調もちょっと変わってた、よね?

 

■ 与えられる愛ではなく

・真実の愛とはなにかというテーマにわりとまっすぐ答えを示してきた

・基本的には自己犠牲というか他人のために自らを投げ出すことが真実の愛を示す行為って描いてた、のかなあ

・アナの氷を溶かすのにハンスがだめなのはもちろんだけど、おそらくはクリストフでもだめだったのはつまり、それが結局はアナにとって受け身の与えられる愛だったから。愛を与えられるのではなく自らが誰かへの愛を示す(自分より大切な誰かのためを思うこと)ことが真実の愛、というのがよかったです

・自らの呪いを解くのに、誰かに与えられるのを待つのではなく、自ら愛を示すことこそが正解につながる道……というのを「ディズニーが」描いたことに大きな意味があるんだと思う

・日本ではキャラクターが大人気だけどアメリカでのディズニー人気といえばプリンセス! なので(らしいです)。プリンセスは与えられる受け身の存在だったから

 

ロマンチック・ラブではなく

・そういう意味ではもうひとつ、プリンセスと王子様との恋愛がお話の解決策でありつづけたのを覆したという方にも大きな意味があると思う

・期待してたとおり、ディズニー伝統の王子様とのキスでも、自分を助けてくれる運命の人とのキスでもなく(二重の転倒)、ずっとずっと大切でありつづけた姉への愛で魔法が解けるというのがすばらしかったです

・もういいかげんロマンチック・ラブじゃなくてもいいじゃん、ていう意味で

・これは決してロマンチック・ラブの否定ではないと思う。ただ今まであまりにも無反省にロマンチック・ラブがたったひとつの答えとして描かれてきたから、この世界にはそうじゃない大切さだってあるでしょう? と示した

ロマンチック・ラブではなくてっていうのも、上の自ら示すっていうのも、日本の女児向けアニメ(プリキュアアイカツなど)ではわりと自然にやってるのけっこうえらいと思う。アメリカでもマイリトルポニーとかがやってると思いますが

 

■ 愛に気づく

・君は本当に愛のことなんにも知らないんだなってオラフに言われてたけど、実はアナの愛はずっと彼女自身の中にあって、でもそれをずっと気づけないでいたし引き離されたことで見失ってもいたんだよね。拒絶されたと感じていたのもあって誰かに与えられる愛に目が眩んでしまってもいた

・ 愛を持っていたのに気づいていなかったのはエルサも同じなんだけど構造は逆で、エルサが自らを閉じ込めたのはは大切な誰かを傷つけたくないからで、自分より誰かのことを思うっていう意味での真実の愛はもとから彼女自身の中にあった。エルサの問題は同じような愛が自分に向けられていたことに気づけなかった・あるいは恐れから受け入れられなかったこと

・アナは誰かへの愛を示すことで真実の愛を知り、エルサは誰かから愛されているということに気づくことで真実の愛を知った、ということなんだと思う

 

■ マイノリティの物語としての側面

・構造というかいろいろなものをメタファーとして受け取ったら(それがたったひとつの正解というわけではもちろんないけれど、ある視点から見たらという意味で)セクシュアルマイノリティを勇気づけてくれる物語にもなるんじゃないかなと思います

・つまり同性愛だ! というよりはセクシュアル「マイノリティ」が自分自身を受容していく物語にも通ずるということ

・だからハンディキャップとか、他の種々のマイノリティの受容のお話でもある

・マイノリティの~とかに限らず、とにかくメタファーに満ち満ちていた映画でしたね

 

■ よかったです

・与えられる愛じゃなく、ロマンチック・ラブじゃなくっていうのを描いてくれたのが個人的にすごくすごく嬉しかったので、とても満足しました

・おうたもよかった!!

・近年のアメリカアニメはミュージカル要素がアツいと聞いてたけど、やっぱりそっち方面でのディズニーの実力はすごい

・日本では劇中人物が歌うシーンっていうと主にアイドルアニメになってくると思うんだけど、ミュージカルアニメもっと増えてほしいです。きんいろモザイクのミュージカルすごくよかったし

 

 

 

 

*1:レイチェル・シモンズ著 鈴木淑美訳(2003)『女の子どうしって、ややこしい!』草思社