中野とわたし

 

Twitterのトレンドに「あずにゃん」と表示されているので何事かと思ってクリックしたら、たくさんの「おめでとう」という文字列が表示された。誕生日である。中野の。

 

中野の話をしよう。

中野と出会ったのは「けいおん!」というTVアニメを見ていたときのことだ。彼女はメインキャラクターたちの一つ下の後輩として登場し、すぐけいおん部の新入部員となり、そして放課後ティータイムの新メンバーとなった。

現れるやいなや、中野は日本中のアニメオタクを虜にした。平沢先輩によってつけられた「あずにゃん」というニックネームはインターネット中に広がり、中野への精神的愛撫を指す言葉として「あずにゃんぺろぺろ」という謎の文字列もさかんに使われた。

 

中野はアニメオタクたちを魅了した。彼女の記号に満ちたキャラクターは純粋な青年たちに愛され、あるいはそのやりすぎなくらいのキャラクターをわかった上でやっぱり可愛いと思うメタ思考好きなオタクたちにも愛された。ひねくれたオタクたちもメタで遊ぶうちに境界を見失い、可愛いというたったひとつの真実を受け入れるに至った。

 

その人気やキャラクターからか、中野には野生の文学性を誘発するところがあった。

中野を愛する人間の言葉は無意識の文学となり、インターネット・ミームとなった。

216:アブラソコムツ(東京都) : 2010/05 /03(月) 00:23:50.19 ID:VD2875a+
あずにゃんって何であんな冷めてるんだろうな
家庭環境で何かあったのかとか気になる
高校生であんなギターに没頭してる時点で何か家庭に不満があるんだろう
援交とかに手を出さないか心配

273:スネークヘッド(catv?)
: 2010/05 /03(月) 00:25:44.02 ID:MnnzG8lN
>>216
あずにゃんが楽器やってるのはそもそも両親がジャズやってたからだろ?
アマのお遊びなのかプロなのかまでは作中で説明されてないかもしれないけれど
いずれにせよちょっと変わった家庭であろうことは想像できる

301:アブラソコムツ(東京都) []: 2010/05 /03(月) 00:26:33.07 ID:VD2875a+
>>273
そうなんだ・・・
もっと知りたいなあずにゃんのこと 

「もっと知りたいなあずにゃんのこと」。

301の発言はこのスレッドでキモいキモいと連呼され、コピペとなった。

これこそが文学なのだった。

狙ったわけでもなく率直に書いた結果からどうしようもなく気持ち悪くて滑稽で悲しいくらいに純粋な何かが生まれてしまう。ここに人間が生きている。口さがない者からは「死んだほうがいい」と言われてしまうような、けれどどうしようもなく確かな感情が、人間が、ここに生きているのである。だからキモいのだ。

(同様の事例として「俺のあずにゃんに彼氏ができた夢をみた」がある)

 

わたしは中野のことを嫌いではないけれど、とくべつ好きというほどでもない。

けいおん! のキャラクターでいえば平沢先輩とムギちゃんのほうが好きだ。わたしはあのアニメが好きだし、登場するキャラクターのこともみんな好きで、嫌いなキャラクターなんていないし、中野のことだってもちろん好きだけれど、いちばんというほどではない。

でも、たくさんのアニメオタクたちが中野を好きだったことは覚えている。争うように誰よりも自分こそが中野を好きなんだと主張した青年たちの声を、わたしは覚えている。

 

アニメの放送は終わる。映画の公開期間も限られている。原作も同じだ。

アニメには終わりが来る。

だからオールタイムベストとかそういうのはおいといて、とりあえず「いまハマっているアニメ」というのは移り変わっていく。それが自然だ。

だから中野を愛した青年たちも、多くはそれを忘れ、別の何かに夢中になっていく。

それは悪いことじゃないし、自然なことだ。むしろいつまでもいつまでも中野のことばかり話しているほうが不自然で、そして少しばかり不気味だ。

誰だって2013年に至るまでシスプリの同人誌を出し続けている人を見れば恐怖を覚える(オタクだからこそ女の子を守ります!)。べつに間違ってることじゃないし、いつ何を好きだってかまわないはずなのに、人はそれを見て禍々しさを覚えてしまう。

 

小説は読んでいる瞬間にこそ存在する。アニメは見ている瞬間にこそ存在する。けいおん! のDVDは物体として存在するけど、けいおん! そのものはあなたが見ているその瞬間にだけ存在しているのだ。

あなたがけいおん! を再び視聴すれば、中野はいつだってそこにいる。

だから中野を愛した彼らが、もしかしたら中野を愛していたことすら忘れてしまった彼らが再び中野と会える日がくるまで、その愛の記憶をわたしがあずキャットくよ。

 

 

おまけ・自分のTwilogで検索してきた中野とわたし